:MEMBER-人を知る
クロストーク
ヒロ
WEBデザイナー/
アートディレクター (1993年入社)
ヒデ
クリエイティブディレクター/
アートディレクター (2013年入社)
JOETSUグループには、第一線で活躍し続けるベテランのクリエイターが在籍しています。今回は、その二人にデザインへの考え方や、グループで求められるデザイナー像を聞きました。現場で培ってきた経験をもとに、キャリアの築き方やトータル・コミュニケーションデザイン(TCデザイン)の要であるパーパスブランディングについてまで幅広く語ります。デザインという仕事の奥深さを感じられる内容です。
ヒロお客様の要望を聞いてビジュアル化する際に、どういうところにフォーカスするか考えていますね。ブランディング目的でデザインするときは、お客様のどこを世の中に見せてあげるとより効果が出るかというところも考えながら、フォーカスする部分を決めています。フォーカスした部分をデザインでどう表現するか、お客様の考えに寄り添って進めます。
ヒデデザイナーは芸術家ではなく、相手の思いを社会へ翻訳する共創者だと考えています。お客様の思いに寄り添いながら、一緒に考え、カタチにしていく。その過程で大切なのは、見た目ではなく“まだ言葉になっていない違和感”を丁寧に見つめ、対話や関係のきっかけとしてカタチにすること。私は「社会に必要とされるデザイン」よりも、「社会を少しでも良くする可能性を持つデザイン」でありたいと思っています。
ヒロそうですね。例えば世の中にある情報は、内容を隅々まで読めば理解出来るものがほとんどです。でもそれだと時間がかかってしまう。そこでデザインを使うことで、伝えたいことが直感的にスピード感を持って伝わるようになります。世の中のコミュニケーションが円滑になるデザインを意識して考えるようにしています。
ヒデJOETSUグループが進めるトータル・コミュニケーションデザイン(TCデザイン)の核にあるのが「パーパスブランディング」です。私たちはまず、企業の存在意義=パーパスを言語化する「考えのデザイン」から始めます。そこから、それを社会に伝わりやすい形にする「カタチのデザイン」へとつなげていく。言葉と形を往復しながら、企業の“らしさ”を見つめ直し、内外に共感の輪をひろげていく。そのプロセスこそがTCデザインの魅力です。
ヒロまず「パーパス・ミッション・ビジョン・バリュー(PMVV)」というフレームワークで、ブランドコンセプトをまとめる。PMVVは現代的にアレンジされた企業理念のようなものですね。このサービスを始めた当初は、このフレームワークは定まっていなかったと聞いていますが。
ヒデ実はフレームワークとして体系化する以前から、同じような考え方で取り組んでいました。お客様との対話のなかで伺った思いや言葉を整理し、そこに込められた意味を一緒に言語化して可視化していく流れが、今のPMVVという形に自然と発展していったのだと思います。
ヒロデザイナーの業務工程の一つですよね。なんとなくやっていたことをしっかり形式化した感じですね。話をいきなり抽象的なものとして形にしようとすると、人によってイメージの幅が広すぎて方向性が定まりにくい。だからまず「パーパス」という形で言葉にすることで、方向性が定まりやすくなる。特に、お客様が経営者ですから、その思いを具体的な言葉として表すには、やはりパーパスが適切だったということですね。
ヒデリーマンショック以降、企業が「社会の中でどう存在するか」がより強く問われるようになりました。そのなかで「パーパス=存在意義」という考え方が再び注目されています。“何のために働くのか”“誰のために存在するのか”という問いを言葉にすることは、働く人たちの納得や誇りにつながります。そして、それをデザインとして見える形にして共有することで、組織全体の方向性が整い、日々の仕事の意味も実感できるようになる。パーパスの言語化と可視化は、経営とデザインを結ぶ大切なプロセスだと思います。
ヒデ TCデザインの仕事は、企業の歴史や活動を丁寧に棚卸しして、本当に大切なものを掬い上げることから始まります。不要なものをそぎ落とし、残った本質を磨き上げる過程は、編集のような作業です。目的は「この会社がなぜ社会に存在するのか」をともに探ること。世代や立場を超えて意見を交わし、多様な視点で議論することで、お客様自身が自社の価値を再発見し、誇りを取り戻す瞬間に立ち会える。それがこの仕事の一番のやりがいです。
ヒロ最初は抽象化する段階が難しくて、なかなか掴みづらかったんですね。デザインって、見た人にすぐ伝わる形で表現するのが基本なんですが、TCデザインの仕事はそれだけでは表現しきれないというか、1つレイヤーが上がる感覚があります。モヤモヤとしていた経営者の思いをしっかりと言語化したうえで、それをさらにデザインとして抽象化する。企業の本質や経営者の目指す方向性を、社会に向けてどう表現するかまで考えるので、ただ分かりやすく見せるだけでなく、イメージ的に企業を表さなくてはいけない。これが非常に難しい。
ヒデ完成したプロダクトや建築のように目に見える成果物は写真で伝えられますが、経営者や社員の思いは目に見えません。だからこそ、言葉や物語、比喩、体験設計などを通して、“見えないもの”を多様な人に伝わりやすいカタチに翻訳していく。デザインの本質は、“見えない関係”を見えるようにすること。それができたとき、デザインはビジュアルを超えた社会的な力を持つと感じます。
ヒロそうなんです。ただ、言葉としては明確になったとしても、それをビジュアル化しようと思うと「これ」というカタチがない。同じ言葉でもデザインとしての表現方法はいくつもあって、その中でその会社らしさを表現しなければいけない。その抽象化のプロセスが、毎回悩むところです。考えては修正し、考えては作って、また直す。その繰り返しで、なんとかカタチにしていきます。
ヒデブランディングで大切なのは、「他と違うように見せること」ではなく、「自分たちの中にある価値を誠実に掘り起こすこと」です。そして、それを社会の中でどんな良い変化につなげられるかを描くこと。“今より少しでも良くする可能性を信じて”取り組むことの積み重ねが、やがて社会全体を穏やかに変えていく。デザインにはその力があると信じています。
ヒロ今日訪問したお客様も、完成したデザインを見て「身が引き締まる思いです」とおっしゃっていました。以前も同じような感想をいただいたことがありますが、その言葉に、デザインが人の気持ちを前向きに動かす力を感じますね。
ヒデ私も、まさにそうした瞬間に、ブランディングの本質があると感じます。第三者の目線でその会社の中にすでにある価値をすくい上げ、いっしょに磨き直していくこと。それは見た目を整えるだけでなく、社会の中の小さなすれ違いや誤解をやわらげ、よりよい関係を築いていく営みでもあります。デザインには、そんな穏やかな変化を生み出す力がある。その可能性を信じて、同じ志をもつ仲間とこれからも挑戦していきたいと思います。
ヒロTCデザインの仕事をしていて、直感が大事だとより一層感じる様になりました。データに基づいて考えることも必要ですが、「この会社ってこのような感じなんじゃないか」とか「この方向性で見せると、その会社らしさがより伝わるんじゃないか」といった、直感的な気づきの方を大切にしています。デザインを考えていく思考の方法として、最初に自分が感じたことを素直に受け入れて、そこから考えを広げて抽象化する流れが重要だなと。
ヒデ直感は大切ですが、それをどう意味づけ、どう物語として構築するかがデザインの醍醐味でもあります。感覚と論理のあいだを往復しながら、押し付けではなく、受け手が自由に感じ取れる余白をつくること。正解のない状況で、価値をともに見いだしていく過程にこそデザインの本質があると思います。それがうまく噛み合った瞬間に、デザインは人の心に静かに届きます。
ヒロ難しくて毎回悩みますけど、面白いんですよ。やればやるほど、次も挑戦したくなるんです。大変だとかいいながら、皆顔が笑っている気がする。
ヒデこの仕事に向いているのは、疑問を持ち続けられる人。すぐに答えを出さず、曖昧さを抱えながら考え続けられる人です。心理学や哲学の分野では、こうした姿勢を“ネガティブ・ケイパビリティ(曖昧さを受け入れる力)”と呼ぶそうです。困難を楽しみに変え、チームで笑いながら考え続けられる人。そういう人が、良いデザイナーになっていくと感じます。
ヒロ先程大切だと話した「直感力」も、その人の経験によって磨かれていくものです。なおかつ、直感を大切にしていないと磨かれていかないので、「なぜそう直感したのか」「なぜその疑問を持ったのか」を考えることも重要ですね。
ヒデデザインは一人で完結する仕事ではありません。JOETSUグループの強みは、ベテランも新人も垣根なく意見を交わし、互いの視点を尊重しながら進められる環境があること。その多様な視点が重なり合うことで、お客様だけでなく、その先にいる生活者へも共感や理解が広がっていきます。私たちは今日も、その穏やかな連鎖を丁寧にデザインしていきたいと思います。